なぜ、大谷翔平投手の163キロはファールになるのか。脳科学の観点から見た答え。
院長の段上 功(だんじょう いさお)です^^
プロ野球も後半戦が始まり、セ・パ両リーグの首位チームがこのまま独走するのか、はたまた2位以下のチームが追い上げて混戦になっていくのか、楽しみですね。
パ・リーグでは、首位のソフトバンクを追いかける日本ハムが、破竹の11連勝で、一気に差を詰めてきました。
その躍進を支える二刀流・大谷翔平投手。
今期は打者で、打率341、本塁打10。投手で、8勝4敗、防御率1.90という、
とんでもない成績を残しています。
中でも今期は、投手として、日本プロ野球の最速記録を更新する、163キロを何度も計測しています。
ただ、その日本最速のストレートがことごとくバットに当たる。
そして、ことごとくファールになるんです。
球のキレが悪いからバットに当たるんだと、よくテレビで言われます。
もちろん、正解なのですが、
なぜプロの打者なのに、キレが良いボールはバットに当たらないのか。
そして、大谷翔平投手の163キロがファールになるのか。
そんなことをボクなりに解説してみたいと思います。
【打者はボールを正確に見ていない】
キレの話をする前に、そもそもなぜ、プロ野球の打者は、
150キロのボールをヒットにすることが出来るのか不思議じゃないですか?
だって、バッティングセンターの130キロを見ても早いのに、
変化球が来るかもしれない中で150キロを打ち返すんです。
これって実はスゴイことなんです。
ピッチャープレートからホームベースまでの距離は18.44m。
150キロのボールがホームベースに届くまでの時間は、
わずか0.45秒だそうです。
一方で、打者がスイングする時間は約0.2秒。
脳が指令を出してから動き出すまでの時間は約0.3秒。
打者がボールを判断して、スイングを完了するまでに約0.5秒かかるわけです。
ということは、ほんの少し、バットスイングの方が遅いんです。
だから、理論的にいえば、ヒットにすることは出来ないはずなんです。
では、なぜヒットにすることが出来るのか。
その答えは、脳科学にあります。
人の脳には、イメージ記憶というものがあります。
見たもの、感じたものを、そのまま記憶するのではなく、
ある程度のイメージを自分で作り上げ、記憶するというものです。
「絶対に間違いない!」と思っていたのに、
実際にはそうじゃなかった!ってことありますよね。
それが、イメージ記憶です。
これは、バッティングでもそうなんです。
打者というのは、来たボールに対して、ボールをはっきりと見ているわけではなく、
「この辺りに来るだろう」というイメージ記憶を元にして、ボールを打っているんです。
このイメージ記憶というのは、過去の体験が多ければ多いほど、脳に蓄積されていきます。ということは、さまざまなボールにも対応しやすくなるということ。
実際に、マーリンズのイチロー選手は、こどもの頃、バッティングセンターに毎日通い、近いキョリに設定したマシンを来る日も来る日も打ち返していたといいます。
その体験が、今に繋がっているというわけです。
(もちろん、それ以降の体験もそうです。)
打者は、そのイメージ記憶を元にして、ボールを打ちにいくので、
理論上打てないはずの150キロのボールをヒットに出来るんです。
【キレのあるボールとそうでないボールの違い】
では、同じ150キロでも全盛期の藤川球児投手のボールはどうなのか。
キレのある浮き上がるようなストレート。
スピードは最速でも155キロ。
もっと早い投手もいる中で、ストレートを宣言しても、プロのバッターは打てませんでした。
それはなぜかというと、
キレのある浮き上がるようなボールへの体験が、あまりにも少ないからなんです。
実際に、ヤンキース・アレックスロドリゲス選手が、WBCで対戦した藤川球児投手のストレートについて、
「あんなストレート見たことがない。下から浮き上がってくるんだぜ。」
と話していたといいます。
メジャーのバッターでもあまり経験することがないボールだったからこそ、
155キロでもバットに当てることが出来なかったんです。
では、大谷翔平投手のストレートはどうなのか。
大谷翔平投手のボールは、高い確率でバットに当てられているんです。
それは、前述したように、キレのある浮き上がるようなボールではないということを証明しています。
ただ、ボクが注目しているのは、
ヒットやホームランにはあまりされていないというところ。
もちろん、バットには当たっています。
ですが、そのほとんどがファールなんです。
なぜそうなるかというと、
やはり、見たこともない速さのストレートをイメージ記憶で対応しにいっているために、なかなかアジャストすることが出来ないからだと思います。
実際に、今期の被本塁打はまだ4本だけ。
それだけ打者のイメージ記憶からは、かけ離れたスピードだということ。
何球もストレートを続けても、なかなかアジャスト出来ないというのは、
全盛期の藤川球児投手ほどではないにしても、やはりある程度ボールのキレもあるのだと思います。
あとは、それを早く見せる技が上手い。
カーブ、スライダー、フォークといったスピードに変化を付けて、
打者のイメージ記憶を幻惑させているんです。
このイメージ記憶を幻惑させるのが特別に上手い投手がいました。
186センチの身長から、大きくカラダを使って、思い切り腕を振って投げるダイナミックなフォーム。
その割に繰り出されるストレートの速さは、130キロそこそこ。
フォームに惑わされ、ただの130キロよりも手元で伸びるように感じ、そのストレートが早く見えるんです。
実際に、千葉ロッテの角中勝也選手は、過去に対戦した投手の中で最もストレートが早く感じた投手に山本昌投手を挙げたそうです。
それだけ今まで蓄積してきた体験のイメージ脳と違ったということ。
空振りを奪えるかどうかは、キレのあるなしだけではありません。
いかに、体験してきたイメージ脳と違う状況を作り出せるかがポイントです。
だから、大谷翔平投手も、そのイメージ脳をもう少し騙すことができれば、今以上に空振りを奪えるのではないでしょうか。
ボクはそんな風に感じています。
イメージ脳って結構おもしろいでしょ^^
打撃の神様・川上哲治さんが「ボールが止まって見えた」というのも、
今までの体験の蓄積が膨大すぎたために起こった現象なんですよ。
書きだすといつまでも書けそうですが、今日はこれで終わらせていただきます。
最後までお読みいただきありがとうございました^^